『選挙』
『選挙』 とにかく面白い。何度も大笑いし、映画に突っ込み、それでいて、日本の民主主義ってなんなの?と、深く考えさせられる一級のエンターテーメントの観察映画。ドキュメンタリーなんだけれど、インタビューも、ナレーションもなし。カメラと、被写体の距離が絶妙なんだなー。「An Inside Look At J-Democraxy」という副題も上手いね。
川崎市市議選補選に、自民党公認での落下傘候補として、立候補した「ヤマさん」こと、山内和彦候補(40歳)の涙ぐましい奮闘記。いや、涙、涙ですよ。単なる地方の補選なんだけども、民主党とは議席数でイーブン。川崎市で、自民党が第1党で生き残れるかが焦点になる上に、川崎市長選挙、神奈川参議院の補欠選挙(しかも候補が、環境大臣、外務大臣の大物、川口順子ときたもんだ)とトリプルということで、縁もゆかりもない、神奈川自民党県連をあげての選挙運動になった。しかも、郵政解散の大勝利の直後。そんなこんなで、単なる市議選の補選なのに、応援弁士が凄いメンツ。川口順子と共にまわるだけでも凄いのに、その兼ね合いで、荻原健司に、橋本聖子に、石原伸晃に、とうとう当時人気絶頂の小泉純一郎(ここが彼の地元でもある)まで来て、応援がある。ふつうの市議選クラスじゃ、ぜったいにあり得ない。
ところが、公募で選ばれた政治の素人のヤマさん。人柄は温厚で、ちょっと間抜け。だから、選挙対策のプロに、挨拶の仕方が悪い、笑顔が足らん、目を離すが早い、演説の声は、その態度は、ほんとうにやる気があるのかと、さまざまなダメだしを受け、机を叩かれて怒鳴らる。後援会で、少しでも不満がでると、すぐにご機嫌を窺って、不満が広がらんように躍起になる。先輩議員からも、ここダメ、あそこダメ、最後は「あんた切腹ものだよ」と脅される。総力戦のために、日頃は同じ選挙区のライバルも他の後援会を横断して手伝う。そのボランティアのオバチャン連中も、作業をしながら、「ボスターの写真が悪い」やら、もう言いたい放題で、ついでに他の議員のうわさをしながら、電話に、チラシの発送作業。あげくは、自家用車の中で、選対のボスに、「旦那のために、仕事を止めろ」と言われて、超激怒している奥さんに、ずっと愚痴を聞かされ、「あんたもっとしかりしなさい」と怒鳴られる始末。でも、その度に穏やかに、「ハイハイと、聞き流していれいいんだよ」と、頭をさげ続けるヤマさん。ああ、なんてけなげなの。もうその姿は、泣き笑いです。同時に、すごいしがらみ。そして、組織力。後援会の人が曰く、「自民党「公認」に値打ちがある。これほどの後援会の力。ぜったいに造反なんかできないわね」と。
当然、典型的などぶ板選挙、イメージ選挙。常に、「改革を進める小泉自民党の山内和彦です」と、声を枯らして、ただただ頭を下げ続ける。改革、改革、改革、小泉自民党公認、小泉、小泉、そして、山内、山内、山内、山内、山内の連呼のみ。
ところで、このヤマさん。なんと祖父、父の代からの郵政一家! 本人も、郵便好きが高じて、切手・コイン商を営み、後々、郵政民営化の影響をもろに受けることになるのに、大の小泉改革のファンっんですから、よーく考えると不思議なことだよね。
さて、さて彼の運命は? しかも、選挙費用の請求は、後に来るので、戦々恐々。さて、超激戦の選挙結果はいかに~。
でも、2時間みても、まったく彼の政策が分からない。ここも凄いぞ。でも、今度の参議院選挙に、おもわず「ヤマさん」と書きたくなるぐらい魅力あるキャラクターだったなー。
ちなみに、自民党の選挙運動では、「妻の○○です」はダメ。必ず「家内です」と言わねばならないそうな。しかも、そのためのお決まりのギャグもある。「家内の○○です。おっと、丁寧に言わないといけませんね。おっかないの○○です。」これで、後援会演説のつかみはOK。あと、選挙中は寝不足、ギリギリの極限状態。こんな時に、人間は生命の危機を感じて、赤ん坊を授かるそうで、これもお決まりのギャグで、「うちも、このときに2人目が仕込まれました」。なーんとね。
いや、ぜったいに、こんなバカなものには立候補しんとこうと思いますね。
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