『弓』と『うつせみ』~今年見たキム・キドク~
韓流ブーム、落ち着いてきました。一時、映画館のロビーは、「どこから湧いてきたの」というほど、前売券を持ったおばはん、いやいやオバサマ方でムンムンしておりました。もっとも、韓国映画といっても、だれでもいいといいわけではないく、イケメン男優と、女優の純愛映画物。韓国映画でも、キム・キドクやポン・ジュノ監督の作品は、それほど人は入らないけれど、こんな良心的な映画が日本で配給されるのも、ブームの恩恵なんでしょう。
で、キム・キドクの最新作を、京都みなみ会館でみました。『弓』のお話。ヒロインの少女のあやうい美しさ。夕闇の中、船嵜で弓を奏でる老人のシーンも、上質の影絵劇のようで幻想的だった。彼の作品の中では、いちばん好きでかも。それだけ彼の世界に慣れてきたのかもしれませんが。
前作は『うつせみ』。京都は上映の関係で、5月に鑑賞。一昨年のベルリンで監督賞を授賞。そのときのグランプリは、マイク・リーの『ヴェラ・ドレイク』。普通のオバサンの名演技に圧倒。善意による中絶問題というディープな内容を、サラリと撮る力量。ぼくはかなり心打たれた、安楽死問題と生きる意味を取り上げた『海を飛ぶ夢』が、男優賞。感銘度の高かった二本と並ぶ評価でしたから、かなり期待してました。
留守の他人の家に勝手に忍び込んで、一時の生活をする若い男と、忍び込んで家で出会った、夫との絶望的な溝を抱える若妻との、奇妙な「生活」が描かれます。設定がユニークで、展開も面白かったけれど、なんとなく物足りなくもありました。主演のジョヒ(イケメン)と、イ・スンヨン(ミス・コリア)が、一言もセリフがないのは、(泣いたり、おこったりはする)ちょっと不自然すぎないかなー。もっもと、「言葉」によって壊れる、微妙な世界を表現してるのでしょう。それでも飽きさせないところに、力量のある証拠かとも思いますが。
で、この「弓」も、主役二人にセリフがない。
広い海に浮かぶ船の上で、2人きりで暮らす老人と少女。10年前、老人がどこからともなく連れて来て、大切に愛でてきたイノセントな少女も、17歳になる。その日が来たら、結婚式を挙げることを誓い合う。10年間、その船から離れたことのない少女は、いわば軟禁(監禁)状態。船は、釣り舟として、外界の人達が訪れる。老人の弓が、少女に悪さをする男たちから、少女を守っている。そしてその弓は、命懸けの弓占いに使われ、そして美しい音色を奏でる二胡として喜びを歌う。
ところが、二人の世界が、外界から来た青年によって乱れだす。奇妙な三角関係。老人に反発する少女。嫉妬する老人。二人の運命は、青年の申し出で、弓占いで決められることになる……。
これから先の展開が見事。ある種、寓話のようで、韓国の伝統的美も重なる物語だった。前々作の『サマリア』にも出演したハン・ヨルムが、イノセントなあどけなさと、同時にエロティシズムの危うさを表情や態度で示して、よかったです。ラスト付近もいい。
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