『ママが泣いた日』と『キング 罪の王』
『ママが泣いた日』(The upside of anger)
こちらは、一転、ヒューマニテックな1本。仕事も順調、生活も安定し、4姉妹が独立する幸せな家庭が、一転、父親の失踪で急変。母親(ジョアン・アレン)は、失踪と時を同じくして帰国したスェーデン美人との駆け落ち)と信じきり、それ以降、温厚なよき母・妻は、アル中ぎみにり、厭味をいい、子供に八つ当たりし、どうにもこうにも嫌な人間になっていく。たまたま隣人の元大リーガー(ケビン・コスナー)とも、懇ろになっていく。それでも、年頃の子供たちは、さまざまな問題を抱えて、母をイライラさせ、攻撃的になり、自分も、回りも傷つけていく。ああ、やっぱり感情って厄介なのね。常に、冷静沈着で、感情的でないことが「大人」の条件である。しかしである。「怒る」の感情って、悪いことばかりではない。このネガティブな感情もまた、(本来の)自分を守る大切な役目をしているのじゃかいのかなー。ただ、それに巻き込まれ、自己自身が罪悪感で苦しみ、ますます回りを傷つける悪循環を、ぼくたちは嫌っているのだ。それならば、うまい感情の表現があったっていいのだろうなーなどと、ちょっと考えましたね。これも、ラストで、父親のほんとうの失踪の原因が、偶然にハッキリしてきます。冒頭のシーンと、うまくつながりますが、ここは上手かった。でも、全体になぜかもう一押しほしかったなー。ちょっと不満が残りました。
『キング 罪の王』
おバカ映画、背徳的な官能もの、そしてヒューマニテックなものと、いろいろと楽しんだけれど、いち押しは、この『キング 罪の王』。やられましたね。こんな映画があるから、評判になってなくても、侮れない。
海軍を除隊し、自由な身になった青年(ガエル・ガルシア・ベルナル)は、亡き母親に教えられた、まだ見ぬ父親に出会いにいく。父親(ウィリアム・ハート)は、今や有名な牧師となり、家族4名が、理想的な幸せ家庭を築き、地位も名誉も得て幸せそのもの。そこに、現れた大昔の若き時の過ちを、受け入れる余地はなく、冷たくあしらう。青年は、美し成長した異母妹に近づく。兄とは知らず、深い関係をもつ彼女。そのことを知った兄は、青年に迫っていくが、その日以来、家族の前から姿を消す。父親は、失踪した息子を求めて、過去の罪を信者の前で懺悔し、告白し、青年をわが子を受容して、互いに和解したかのように見えるのですが。
とにかく、ガエル・ガルシア・ベルナルのイノセントでありながら、肌寒いまでの凶悪ぶりには脱帽。突然、過去の傷を暴かれ、苦悩するウィリアム・ハートと、夫の過去を受けいれられずにいながらも、徐々に、青年に心を開くローラ・ハーリングの脇もしっかりしていて、サスペンス調で見事えありました。
物語は、旧約聖書の「カインとアベル」(アダムとイブの息子たちよる、人類最初の殺人事件)や、ギリシャ神話で、「エディプス・コンプレックス」の基になる「オイディプス」などを意識しているのでしょう。寓話調の部分に、ところどころに象徴的な場面が挿入されています。狩りのあと、鹿の肉をさばき、血みどろの床を洗い流す場面や、夜中に赤い鼻のピエロと出会う場面などは、まさに、つぎの展開への暗示や象徴なんでしょう。父親のトランプの王様のようなヒゲも象徴的でした。
そして、ラストの設定、セリフ。これが見事。参りました。お勧め!
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