『感情』
岩波書店の1冊でわかるシリーズ(いまのニーズですね。じっくり時間をかけて学ぶのではなく、サァーと読んで分かった気になれるものがうける時代。でも、実際は、一冊でわかるような定番の総花的なテキトスではないですが…。イギリスのシリーズ。) で、ディラン・エヴァンズ著「感情」を読んだ。 これが、なかなかおもしろかった。
最新の進化心理学を中心に、脳神経生理学、ロボットや人口知能工学の知見を通して、人間の感情(情動)に迫っていく。
いや、厄介でしょう、感情って。サイモン&ガーファンクルに、「アイ アム ア ロック」という名曲がある。「僕は岩(ロック)。僕は島。」で歌詞は始まり、「岩は痛みを感じない。島は決して泣きはしないから。」と、傷つくことを恐れ、疎外感から心を閉ざして、身を守ろうとする歌詞。若い頃は、この歌詞にずいぶん共感したもの。岩なら、悲しいことも、怒りも、傷つくこともないものなー。
でも、そんな感情って、厄介なもので、人間の判断を誤らせるものなんでしょうか。一般の知性を過度に優位に考える風潮に対して、疑問を投げかけている。もちろん、過剰に、感情の優位性を説くのではなくて、その機能を多面的に捉えつつ、いつ、頭(知性)よりも心(感情)の発する声に耳を傾け、逆にいつ知性に従うべきかを知ることが、実は重要であるかと解説されている。「情動的理性」という考え方に近いそうな。
中でも、「スタートレック」のミスター「スポック」(宇宙人と人間の混血で、情動が存在せず、判断するときに情に流されることもなく、恐怖に苛まれることもなく、また罪悪感に苦しむことなもいわけ)、常に知性で判断する人種を、人間より聡明で、進化した生物としている点について、しかし残念ならが、情動を欠いたままの高等生物は、進化することが難しく、さらに、感情をもつコンピューターや人工知能は可能なのかという点にも、発展する。
また、第3章の「幸福への近道」では、喜び(一過性の情動)と、幸福感(気分の一種、継続する)を分けるところから始まり、サイコセラピーから、芸術、ドラッグ、そして瞑想に至るまで、幸福感を私たちにもたらす近道、「気分操作の技法」についての論考も興味深かった。特に、「大金を得れば、幸せになれる」というのは、普遍的な真実のように信じられているが、宝くじ(大金)を当たることは、決して幸福になれるものてはなく、その幻想にすぎないというくだりなどは、冷静に考えればまったくその通りなのだが、現実は盲点になっている。
また情動がいかに私たちの認知能力に影響を与えているかを、「注意」と「記憶」と、そして「論理的推論」の三つの認知能力との関わりを論じられている。記憶ひとつとっても、そのときの情動・感情に強い影響を受けているかがよく分かるわけで、同じ経験でも、情動を伴った出来事は、やはり鮮明に記憶されるが、しかし、それは中核的なところであって、逆にそんなときは、周辺部の特徴は忘れされるというのである。フーンそうなのねと納得させられた。
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