「蟻の兵隊」
自らが、国家の被害者であると同時に、国の一歯車となり、加害者としても生きている事実(60年たったいまも身についている恐ろしさを)、真っ向から受け止めて、ただ事実を、事実として明らかにし(負の遺産も含めて)、目を逸らさずに凝視しようとする、80歳の老人の真摯で、一途な姿勢に、感激した。 『戦争で死ぬ、ということ』という本を紹介したが、こちらは『戦争で殺す、ということ』という面もある。国家の、殺人マシーンに仕立てられていくプロセスを、自らが再体験していく場面での、老人の気づき、態度がすばらしい。 冒頭の靖国神社での若者との対話、奥様とのなにげない会話、病院での会話、高齢になった同じ仲間との対話。脳梗塞の病床になる元高級将校との対話。ホテルの一室での姿。中国の放送局とのインタビュー、中国で強姦された女性との会話、処刑した被害者家族との対話。そして小野田さんとの一場面、「60年前のことだから」と対話を拒む元将校との対話、そしてラストの一場面も。どれをとっても珠玉の場面ばかりだった。 真摯に事実を後世に明らかにしよう、それを語ろうとする人も、また(「昔のことだから」と困惑し)沈黙する人も、(短い場面だったが、感情的になった小野田さんをみて「ああ、こうして護らないと、生きていけないのだろうな」とも思わされた)戦争を美化せざるえない人もまた、身も心も深く深く傷つけ、狂わされた戦争の犠牲者であり、同時に加害者になっていく。多くの善良な普通の人々を狂気に走らせ、多くの善良な普通の人々の命を奪っていく戦争の、愚かさ、残虐さ、恐ろしさの一端が見えてくる。 それにしても、日本という国は、昔も、また今も、どこまでご都合主義で、責任逃れをしていくのだろうか。複雑な思いにもなり、考えさせれる一本。 しかし、今の日本では、大手の配給が相手にされない内容だが、MIXIやブログ、口コミなどで評判が広がって、上映が拡大しているそうだ。日本も、まだまだ捨てたものじゃないなー。逆にいうと、みんな、今の日本の現状への危機感があるのだろう。京都でも(いちばん小さな劇場だったが)盛況だった。ただ、客層は年配の方が多かった。ぜひ、若い人に見てもらって、共に語りたい映画だった。 昨日、仕事の合間を縫って、京都シネマで、『蟻の兵隊』を観て、震えた。山西省残留日本軍問題に、真っ正面から取り組んだドキュメンタリー。傑作だ。
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コメント
触発される内容のブログばかり。味わわせて頂いております。大事に言葉にしたいが・・・なかなか。
昔からあまり映画を観ない私。観たい映画に出遇っていないのかも。この映画はぜひ観なければっと思い立つ。京都か大阪でと上映情報はゲット。さぁいつ思いきって出かけられるか(苦笑)。
観られた方の感想をお聞きしたりして、この夏中国旅先で観たさらばわが愛という映画との出遇いに共通する何かを感じた。まず中国ということがあるけどもっと深いものを。
映画通のかりもんさんはご存知でしょうか?
何もしらない私は 知らなければいけない そんな気がする。ほんとうに 何も知らないなんとも想いもせず我がこと一番に思うばかりの 私だから。
華光会館の改修工事。黒河さんの法供養。なんまんだぶ。
投稿: 雀斑。 | 2006年9月 8日 (金) 15:31
雀斑さん。こちらお久しぶりですね。パソコン修復してなによりです。
中国旅行、楽しかったでしょうね。
そうですか。「さらば、わが愛 覇王別姫」をご覧になられましたか。あれはいいですね。うちは夫婦共に、大好きな映画です。あんまりよかったので、その後のチャン・カイコー作品も、またレスリー・チャンが主演している映画の上映あれば、ソワソワします。来週の5日間限定で、9月12日の命日に合せて、レスリー・ャンの「楽園の瑕」があるで、観に行く予定です。
世間は、韓流でしたが、ぼくは、華流かな。中国映画は大好きです。
投稿: かりもん | 2006年9月 8日 (金) 17:48