『ゆれる』
タイトルどおり、ぼくのこころも、揺さぶられた。
温厚で、家族にも、家業にも、また狭い田舎の風習にも、従順に生き、人望も厚い兄、香川照之。ことごとく父とぶつかり、田舎を捨て、東京で、芸術家(写真家)として華麗に生きる弟、オダギリ・ジョー。見た目もにつかわぬ二人だが、兄の性格のゆえか、唯一、心を許せる間柄だった。母の一周忌をきっかけに帰省した弟が、兄と、ふたりが愛するひとりの女性の3名で、子供のころの思い出の渓谷に出かけた、吊り橋の上で、その「事件」がおこる。
それは、事故なのか、殺人事件なのか。単なるミステリーではない。なぜなら、ほんとうの事実かどうかは、観るうちに問題ではなくなってくる。それは、そこに関わる人々のゆれる思いが、作り出した、いくつかの異なる「事実」があるからだ。生身の人間の心の複雑さ、多様性、そして、関係の不思議さが、丁寧に描かれていた。ラストシーンの答えも、ぼくたちに委ねられていくのも、いい。
兄弟役の二人に加えてて、滑稽なまでに、家長風をふかせて威張る父、伊武雅刀の存在もいい。彼もその虚勢の後ろに、家を捨て、東京で弁護士をする兄に対する、ゆれる複雑な思いを抱えていた。
本作が2作目の女性監督。複雑な男の兄弟愛と深い相剋、葛藤を、脚本から手がけているそうだ。脱帽。
余談ながら、冒頭はロードムービー風に始まり、法事の場面は、浄土真宗。勤行はなく、お説教が、それなりで、妙にうまかったのがおかしい。もちろん、ぼくだけがクスッとした。まだ上映中で、地方によっては、これからなので、機会をみて。そうそう、男じゃないけど、T子ちゃん、A子ちゃん姉妹にも、おすすめです。
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コメント
幼い頃から雑草と花のように(と私が思ってる)育ってきて、花が羨ましかったり、ねたましかったりして、それでも仲良くなりたいと思ってました。
今、娘達の姿をみながら自分と重ね合わせながら、
花の存在のありがたさや、雑草の心地よさを感じながら、それでもやっぱりゆれながらすごしています。
ゆれながら、関わっていけばいいんだなあって感じました。観てみたい映画です。
投稿: Tねこ | 2006年8月13日 (日) 10:26
オーオーオ。Tねこさん、ありがとう。
親子も、夫婦もそうだけれど、兄弟、姉妹もなかなかどうして複雑だよね。
たぶん、いつも読んでくれいてるであろう、妹Aさんも、一度、コメントちょうだいね。
投稿: かりもん | 2006年8月13日 (日) 21:05